少し古い本ですが、日本を代表する指揮者であった小澤征爾さんと、これまた日本を代表する数学者である広中平祐さんによる対談を書籍化した『やわらかな心をもつ』(新潮文庫)という本があります。天才二人の感性に触れられるとても良い本です。
この本の中にイタリア語学習に関する二人のやりとりがあります。(二人は同時期にイタリアに住んでいたのです。)
小澤さんはとても勘が良く、パッと日常会話ができるようになってしまう。それを広中さんは羨ましいと述べるのですが、逆に小澤さんは、広中さんのようにしっかり文法から学ばなければ、日常会話で止まってしまって、イタリア人と深い会話ができるレベルにはならないと述べるのです。
どうやって英語を勉強したらいいのかと考えるときには、このことを忘れてはいけないと思うのです。つまり、どのレベルまでを求めているのか、ということです。
もし、ちょっとそれらしく会話ができるレベルで良いのなら、それは勉強とはあまり関係がありません。英会話スクールにでも通っていれば、ある程度の会話はできるようになります。
一方、英語の文献が読めるとか、ビジネスや学問研究で英語を使いたいと考えているなら、広中さん流の勉強が必要になるでしょう。まずは、ここを確認していただきたいと思います。
そのうえで、私たちは塾ですから、もちろん、広中さん流の勉強の方法をお伝えすることになります。
第二外国語学習の方法は多くの研究がなされている分野です。まずはその知見からお話しします。
第二外国語の学習といっても、場合によって方法が変わります。
それは、その第二外国語が母語に文構造が近いか遠いかです。
第二外国語の文構造が母語と近いのであれば、暗唱が効果的です。
例えば、私たちが韓国語を学ぶなら、暗唱・多読をひたすらすれば良いのです。
トロヤ遺跡を発掘したシュリーマンは、その費用を交易で稼ぎましたが、それは18ヶ国語を操れたからでした。シュリーマンの勉強法は、その著書『古代への情熱』(岩波文庫)に記されています。その要諦は、たくさん音読して暗唱するということです(シュリーマンは「翻訳」を禁止します)。
しかし、英語のように日本語と文構造が大きく違う言語を学ぶ場合は、やはり文構造の違いを認識して、それに慣れる必要があります。これを飛ばすと、小澤さんと同じ問題にぶち当たってしまいます。
ここでいう文構造とは、統語法と呼ばれる言語の大きな特徴です。
例えば、日本語ではふつう述語が最後に来ますが、英語では主語の直後に動詞(述語)が来ます。
英語学習では、まずそれに慣れなければならないのです。
私たちの考えでは、英語を学ぶうえでは、二段階を経る必要があります。
① 文構造に慣れる段階。
② 多読・暗唱する段階。
余談ですが、この①の重要性が忘れられたせいで、学校での英語教育は混乱しているのだと私たちは考えています。
②の段階に行けば、もう学習は誰でも自動的に進むのです。ですから、①をどのようにマスターするかが大切になります。
方法は簡単です。英文を用意したら(教科書で構いません。学創では英字新聞を使っています。)、
① 動詞を□で囲う。
② 主語と動詞、可能なら目的語と補語を確認する。
③ 意味を予測しながら音読してみる。(単語は調べない)
これを繰り返します。
単語を調べないということに関して疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんので、少し補足します。
私たちは、知らない言葉がたくさんあっても、日本語の本はなんとなく読めます。あるいは、むしろそうやって、知らない言葉を憶えていきます。
単語を調べたり、単語の暗記にこだわると、単語の意味で文意を推測するようになり、文構造に慣れるうえで逆効果になることが多いのです。
(医学部受験で何浪もしている人を見ると、単語だけはたくさん憶えていますが、英語の構造を全くわかっていないということが多々あります。)
実は、中学生の検定教科書には、ちゃんと文構造の話が載っているのですが、私たちの観察する限り、これを授業で扱わない先生ばかりなのです。大変残念なことです。
さて、蛇足ながら、東京大学をはじめとする難関大学の入試問題になると、そうした英語の知識は前提としたうえで、普通に読解力が求められます。それくらいの英語力は当然のものとして、内容把握が求められるわけです。
目指すべきは、英語の学習にとどまらないのです。