書家であり、歌人であり、大学教授でもあった會津八一(あいずやいち)という人がいます。
その會津八一が彼を慕う多くの門下生に書き与えた「学規」というものがあります。これは、會津八一の透徹した人生哲学に根ざした、学ぶうえでの、そして生きるうえでの指標となるものです。
一 ふかくこの生を愛すへし
一 かへりみて己を知るへし
一 学藝を以て性を養ふへし
一 日々新面目あるへし
この「学規」を、今のぼくなりの解釈で君に伝えてみたいと思います。
人生とはわからないものです。いろいろなことが起こります。運良く思えること、また逆に不運に思えることがあります。そして、それらが君の人生をつくっている。それをそのままに愛する。自分の人生を丸ごと受け入れる。この自分の人生を誰よりも深く深く味わう。それが自分の生を愛することだと思います。
自分のことはわからないものです。やるべきことがやれなかったり、理由はわからないけれど何かに熱中したり。自分のことこそ実は自分にはわからないのです。だからかえりみる。自分というものをよく観察し考察する。それが己を知るということだと思います。
学問と芸術は人類の積み重ねてきた叡智の結晶です。君の悩みは必ず先達が悩んだことのあるものです。君の知りたいことは先達が知りたかったことであり、実際に探求したものです。その最高の「研ぎ石」によって、自分を磨き上げる。自分の善い性質をさらに発展させる。それが性(さが)を養うということだと思います。
自分の人生を大切にし、自分を知ろうとし、学問と芸術と対峙することによって自分を磨きあげようとするなら、それは絶えざる努力として結晶されるはずです。毎日一歩いや半歩でも前進し、自分をつくりかえていくことこそ人生最高の楽しみだと言えるでしょう。まさに新面目あるべしです。
目の前の勉強は、ちっぽけな合格のためにあるのではありません。君の人生のためにあるのです。今君は、勉強を通して、まさに自分をつくっているのです。今日一日の行動が君の人生となっていくのです。
會津八一先生と共にぼくは君に語りかけます。君は今日どう生きますか。(S)